現場から語る中国撤退の実務

~1,000社の経験が教えてくれた、本当の解決の道筋~

化学メーカーの軌跡 -諦めかけた工場売却を実現させた舞台裏-

私が初めて上海に赴任したのは1993年のことでした。当時、日系企業のクライアントは一社もない状態。それが今では延べ3,000社を超える支援実績を重ねることができました。その中で最も印象に残っているのが、ある東証プライム上場の化学メーカーの案件です。

「もう他社に依頼しかけていたんです」と、担当の富澤さんは当時を振り返ります。工場は上海郊外。従業員は200名を超え、リストラの進め方に頭を悩ませていました。最初に現場を訪れた時の光景は今でも鮮明に覚えています。人件費は5年前の1.8倍。環境規制の強化で設備投資負担も増える一方でした。

予期せぬ困難との遭遇 -労働契約が突きつけた現実-

この案件で最初に直面したのが、労働契約の問題でした。実は上海では最近、残業代を平均賃金から除外できるようになっています。経済補償金が実質的に半減するケースも。でも、これが仇となった案件も経験しています。ある電機メーカーでは、この規定を適用しようとしたことでストライキが発生。工場のラインが止まって億単位の損失が出ただけでなく、最終的に親会社が全額負担することになってしまいました。

この経験から、富澤さんの案件では違うアプローチを取りました。まず現場の管理職と個別に面談。従業員との関係や、これまでの苦労話に耳を傾けました。すると、意外な事実が見えてきたのです。実は2年前から、いくつかの部署で非公式の転職相談会のようなものが開かれていた。これは使えると思いました。

「従業員の再就職支援から始めませんか?」そう提案すると、富澤さんの目が輝きました。実は彼も、できれば従業員の将来まで考えた撤退にしたいと考えていたそうです。

土地評価を巡る攻防 -思わぬ展開が生んだチャンス-

清算は避けたい。でも、果たして買い手は見つかるのか。そんな不安を抱えながら、次の作戦に出ました。実はこの地域、再開発の計画が持ち上がっていたのです。土地の評価額は、ここ2年で倍近く上がっていました。

「でも税金が心配です」と富澤さん。確かにその通り。土地使用権の譲渡では増値税と土地増値税が課題になります。特に土地増値税は値上がり益に対して30-60%の累進課税。ここで判断を誤ると、せっかくの売却益が目減りしてしまいます。

そこで、地元の不動産評価のプロを呼んできました。彼とは製紙メーカーの案件以来の付き合い。一緒に工場を見て回り、詳細な評価書を作成してもらいました。この評価書があとで税務署との交渉で大いに役立つことになります。

予想外の展開 -買い手との駆け引きが始まる-

買い手探しは困難を極めました。4社と交渉しましたが、なかなか条件が合いません。そんな中、思わぬところから話が来ました。地元政府と関係の深い投資会社です。最初は疑心暗鬼でしたが、実際に会ってみると、案外まともな会社でした。

でも、ここからが本当の勝負です。持分譲渡の手続きは13のステップがあります。一つでも間違えると、最初からやり直し。特に最近は、2020年施行の外商投資法で手続きが変わっています。昔は董事会決議で済んだものが、今は株主会決議が必要になったりと。

最大の難関 -エスクロー口座を巡る攻防-

実は、この投資会社との交渉で思わぬ障害に直面しました。エスクロー口座の開設です。先方は「うちの関連会社の口座でいいじゃないか」と主張してきた。これには富澤さんも固く反対。「絶対に譲れない」と。

そうこうしているうちに、地元税務署から呼び出しが。担当官は若く、外資企業の持分譲渡の経験が浅いようでした。「なぜこの評価額なのか」「どうしてこの買い手なのか」と矢継ぎ早の質問。

現地ネットワークの力 -長年の信頼関係が実を結ぶ-

ここで効果を発揮したのが、現地の税務顧問との長年の付き合いです。彼女は税務署のOBで、若手職員の性格まで把握していました。「この担当官は、説明さえ丁寧にすれば必ず理解してくれる」と。本当にその通りでした。

一番の山場は、従業員との最終合意でした。食堂に全員を集めて説明会を開いた日のことは忘れられません。最前列に座った古参の工員さんが、突然立ち上がったのです。「私たちの将来はどうなるんだ」。会場が水を打ったように静まり返りました。

その時、現場監督の王さんが前に出てきました。彼とは前日まで、再就職支援プログラムの詳細を詰めていました。「皆さん、私もここで20年働いてきました。正直、このニュースを聞いた時は不安でいっぱいでした。でも…」

地方都市での挑戦 -新たな困難との直面-

精密機器メーカーの渡辺さんの案件でも、似たような場面に遭遇しています。ただ、こちらは地方都市でしたから、また違った難しさがありました。「持分売却における中方との交渉で、本当に四苦八苦しました」と渡辺さん。

特に苦労したのが、土地使用権の問題です。この地域、再開発計画が二転三転していて、評価額の設定に頭を悩ませました。「これ、本当に売れるんですかね」と渡辺さんは不安そうでした。でも、この地域での人脈を持つ地元の弁護士が、思わぬ情報をもたらしてくれたんです。

地元政府が密かに進めていた新しい開発区の計画。その中に、この工場用地が組み込まれていたのです。「これは使える」。私たちは即座に方針を転換しました。

その後の展開は、まさに怒涛の日々でした。商務局への届出、工商局への変更登記申請、税関登記の抹消申請と、一つ一つが正念場。特に税関での手続きは緊張の連続でした。昔の輸入設備の通関書類が一部見つからないという事態も。

経験が導いた成功 -東北部での新たな挑戦-

でも、この経験は次の案件で生きることになります。食品メーカーの谷さんの案件です。東北部の田舎町にある工場でしたが、前回の経験を活かして、最初から地元政府との関係構築に力を入れました。

「解散清算を覚悟していました」と谷さんは言います。でも、地道な情報収集が実を結び、思わぬところから買い手が現れたんです。「土地も建物も売却できて、本当に助かりました」。

今でも覚えています。最後の送金手続きが完了した時の渡辺さんの表情を。「これで肩の荷が下りました」。その言葉に、胸が熱くなりました。

環境規制という新たな課題 -見えない圧力との戦い-

最近特に増えているのが、環境規制絡みの案件です。つい先日も、ある化学メーカーから緊急の相談がありました。現地当局から突然、環境アセスメントの再審査を求められたというのです。

「このまま生産を続けるには数億円の追加投資が必要です」。担当役員の声には焦りが滲んでいました。実は似たようなケースを以前も経験していました。その時の教訓を思い出しながら、工場を視察することにしました。

現場に着くと、驚くべき光景が広がっていました。工場の隣に、いつの間にか高級住宅街が建ち始めていたのです。「これは厳しい」。直感的にそう思いました。

案の定、地元政府との話し合いで本当の狙いが見えてきました。この地域一帯を住宅地域に再開発する計画が、水面下で進んでいたのです。でも、ここからが私たちの本領発揮です。

地元の不動産事情に詳しい専門家を呼び、土地の評価作業を開始。同時に、現地法律事務所の張弁護士に環境規制の詳細な調査を依頼しました。張弁護士とは10年来の付き合い。彼の的確な分析のおかげで、交渉の糸口が見えてきたのです。

ポイントは二つありました。一つは、工場の環境対策が実は地域の基準を上回っていたこと。もう一つは、再開発計画自体がまだ正式承認を得ていない段階だったことです。これらの材料を使って、地元政府と粘り強い交渉を重ねました。

結果として、土地使用権と建物を想定以上の価格で売却することに成功。従業員の再就職支援プログラムまで組み込んだ形で、案件をまとめることができました。

この経験から学んだのは、表面的な課題の裏に、必ず本質的な理由があるということ。環境規制の問題も、実は都市開発という大きな文脈の中で捉える必要があったのです。

30年の経験が導いた結論 -答えは常に現場にある-

私の机の引き出しには、これまで支援してきた企業の方々からいただいた名刺が大切に保管してあります。時々それらを見返すことがあります。どの案件も、最初は途方に暮れるような状況でした。でも、一つ一つ課題を解決していく中で、必ず道は開けてきた。

来月の名古屋商工会議所でのセミナーでもお話しする予定ですが、経験則として言えるのは、中国での撤退に”正解”はないということ。その案件特有の状況を理解し、地域性を考慮し、そして何より現場の声に耳を傾けることが大切なんです。

撤退を検討されている企業様、まずはお気軽にご相談ください。30年の実務経験と1,000社以上の支援実績を活かし、御社の状況に最適な撤退戦略をご提案させていただきます。

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